JR九州農業で地域創生
10/22
[10/21の日経新聞 九州地方版より]
「我々が農地を引き継いで守っていくだけでも意味がある」。九州旅客鉄道(JR九州)子会社の農業生産法人、JR九州ファーム(佐賀県鳥栖市)。長崎県松浦市の事業所長を務める森崎崇取締役は同市内でアスパラの生産に心血を注ぐ。
直近までは本社でICカード事業に携わっていたが、JR九州ファームの田中渉社長に「働かせてほしい」と直訴。アスパラ農家に弟子入りした後、2015年10月から地主から借りた土地で本格的に始めた。
田園風景で誘う
6月、松浦市で開かれたアスパラの収穫祭にJR九州の唐池恒二会長も訪れた。JR九州ファームの入社式など大事な行事には必ず顔を出す。博多-韓国・釜山を結ぶ高速船「ビートル」や外食など多角化を進めた唐池会長が新事業にかける思い入れは強い。
少子高齢化で耕作放棄地が目立つ九州。車窓からの景観が損なわれれば、観光にも悪影響を及ぼす。九州の基幹産業である農業の弱体化は、JR九州の収益にも響くとの危機感がある。唐池会長は「荒れ果てた農地を耕すことで雇用を生み、田園風景も取り戻せる」と強調する。
農業で雇用や観光客が増え地域が活性すれば、まちづくりになる。「農業の1億円の売り上げは流通の100億円に匹敵する価値がある」(唐池会長)。いわば、JR九州流の地方創生の解だ。まだ赤字だが、そこに課せられた使命は大きい。
沿線資源生かす
「地域とより密着した列車が必要」。17年春から熊本-人吉間を運行する観光列車「かわせみ やませみ」について、青柳俊彦社長は4月にデザイナーの水戸岡鋭治氏の案に注文を出した。
豪華寝台列車「ななつ星in九州」やスイーツ列車「或る列車」とは異なるコンセプトに修正した。列車の資材などに多くの地域産品を取り入れれば、観光客だけでなく地元も魅力を再発見して、活性化につながるとみた。
その意をくんだ水戸岡氏は5月以降、人吉周辺に足を運んだ。今月17日には寺社・仏閣向けに木材を供給する三和物産(熊本県相良村)を訪問。樹齢80年で10年間も自然乾燥されたヒノキに触れ、「こんな良い素材はもっとPRした方がいい」。車内のテーブルにヒノキを全面的に使うことを決めた。
今後は地元産の食材を使った駅弁の開発を進めるほか、客室乗務員の制服に「阪急メンズ東京」(東京・千代田)でも扱うHITOYOSHI(熊本県人吉市)のシャツを使うことも検討する。内装だけでなく駅弁や制服まで全てで沿線の魅力を凝縮させる。水戸岡氏は「観光列車は祭りのみこし。地元の人も担いで地域を活性化したい」と話す。
25日の上場当日。石原進相談役をはじめとした大半の経営幹部が東京証券取引所に駆けつける。「旧国鉄のような破綻は二度と経験したくない」(石原相談役)との危機意識を共有し、会社を成長させてきた旧国鉄入社組だ。
だが、今や大多数を占めるのはJR九州発足後に入社した社員たち。旧国鉄時代の教訓を継承し、地方創生を実現できるか。上場を機に手綱を引き締めなければ、30年間築いてきた基盤が揺らぎかねない。
新井惇太郎が担当しました。次回はインタビューを掲載します。
【図・写真】長崎県松浦市の農場ではアスパラを生産する
[10/21の日経新聞 九州地方版より]
「我々が農地を引き継いで守っていくだけでも意味がある」。九州旅客鉄道(JR九州)子会社の農業生産法人、JR九州ファーム(佐賀県鳥栖市)。長崎県松浦市の事業所長を務める森崎崇取締役は同市内でアスパラの生産に心血を注ぐ。
直近までは本社でICカード事業に携わっていたが、JR九州ファームの田中渉社長に「働かせてほしい」と直訴。アスパラ農家に弟子入りした後、2015年10月から地主から借りた土地で本格的に始めた。
田園風景で誘う
6月、松浦市で開かれたアスパラの収穫祭にJR九州の唐池恒二会長も訪れた。JR九州ファームの入社式など大事な行事には必ず顔を出す。博多-韓国・釜山を結ぶ高速船「ビートル」や外食など多角化を進めた唐池会長が新事業にかける思い入れは強い。
少子高齢化で耕作放棄地が目立つ九州。車窓からの景観が損なわれれば、観光にも悪影響を及ぼす。九州の基幹産業である農業の弱体化は、JR九州の収益にも響くとの危機感がある。唐池会長は「荒れ果てた農地を耕すことで雇用を生み、田園風景も取り戻せる」と強調する。
農業で雇用や観光客が増え地域が活性すれば、まちづくりになる。「農業の1億円の売り上げは流通の100億円に匹敵する価値がある」(唐池会長)。いわば、JR九州流の地方創生の解だ。まだ赤字だが、そこに課せられた使命は大きい。
沿線資源生かす
「地域とより密着した列車が必要」。17年春から熊本-人吉間を運行する観光列車「かわせみ やませみ」について、青柳俊彦社長は4月にデザイナーの水戸岡鋭治氏の案に注文を出した。
豪華寝台列車「ななつ星in九州」やスイーツ列車「或る列車」とは異なるコンセプトに修正した。列車の資材などに多くの地域産品を取り入れれば、観光客だけでなく地元も魅力を再発見して、活性化につながるとみた。
その意をくんだ水戸岡氏は5月以降、人吉周辺に足を運んだ。今月17日には寺社・仏閣向けに木材を供給する三和物産(熊本県相良村)を訪問。樹齢80年で10年間も自然乾燥されたヒノキに触れ、「こんな良い素材はもっとPRした方がいい」。車内のテーブルにヒノキを全面的に使うことを決めた。
今後は地元産の食材を使った駅弁の開発を進めるほか、客室乗務員の制服に「阪急メンズ東京」(東京・千代田)でも扱うHITOYOSHI(熊本県人吉市)のシャツを使うことも検討する。内装だけでなく駅弁や制服まで全てで沿線の魅力を凝縮させる。水戸岡氏は「観光列車は祭りのみこし。地元の人も担いで地域を活性化したい」と話す。
25日の上場当日。石原進相談役をはじめとした大半の経営幹部が東京証券取引所に駆けつける。「旧国鉄のような破綻は二度と経験したくない」(石原相談役)との危機意識を共有し、会社を成長させてきた旧国鉄入社組だ。
だが、今や大多数を占めるのはJR九州発足後に入社した社員たち。旧国鉄時代の教訓を継承し、地方創生を実現できるか。上場を機に手綱を引き締めなければ、30年間築いてきた基盤が揺らぎかねない。
新井惇太郎が担当しました。次回はインタビューを掲載します。
【図・写真】長崎県松浦市の農場ではアスパラを生産する