害虫が農薬に耐性を持つ仕組み
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共生細菌のちからで害虫が農薬に強くなる助け合いの仕組みを解明
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「略称:産総研」生物プロセス研究部門微生物生態工学研究グループは、英国の学術誌「Nature Communications」に掲載されました。
害虫と細菌が助け合って農薬に対抗していた。産業技術総合研究所などの研究グループは、害虫のカメムシが農薬の抵抗性を獲得する仕組みを初めて解明した。カメムシが取り込んだ農薬を腸内の共生細菌が分解し、解毒し体外へ排出し、微生物(細菌)と宿主が共存しているとのことです。
・昆虫に共生している細菌は、昆虫の消化器官に定着し、農薬を解毒するが、一方細菌自体は毒性を引き受け生育が抑制されることがわかったようです。
相異なる生物が共生することで、新しい機能を獲得することになります。
毒性のある成分フェニトロチオンは、宿主の消化器官で共生細菌が分解し、体外へ放出されるとのことです。その際、農薬を分解した細菌といっしょに存在する他の細菌も農薬抵抗性を獲得していることが明らかにっています。
[専門用語の解説]
●共生細菌
動植物の体内に生息し、宿主生物の成長と繁殖に寄与する細菌。多くの昆虫共生細菌は宿主昆虫の栄養代謝に重要な役割を果たす。不足栄養素の補償や食物(難分解性の木質など)の分解消化などが知られている。農業害虫(植食性昆虫)、衛生害虫(吸血性昆虫)、家屋害虫(木材食性昆虫)の多くが共生細菌を保有している。
●農薬抵抗性
害虫が有効量の農薬に耐える性質のこと。大量合成された農薬が世界的に使用され始めた20世紀中頃以降からさまざまな害虫において見いだされるようになり、現在では約500種類以上の害虫について何らかの殺虫剤に対する抵抗性が報告されている。抵抗性の主な機構としては、害虫自身の薬物排出機構の強化、殺虫剤標的(酵素や受容体など)の構造変化、解毒能力の向上などが知られる。このような害虫自身の性質に加え、最近の研究により、害虫の腸内細菌が農薬抵抗性に寄与することが明らかになってきた。
●遺伝子水平伝播
細胞分裂によって母細胞から娘細胞に遺伝子が垂直的に移動するのではなく、他の細胞から遺伝子が取り込まれる現象を総称して遺伝子の水平伝播と呼ぶ。細菌では、病原性毒素に関わる遺伝子や抗生物質耐性に関わる遺伝子の同種細菌間や異種細菌間での水平伝播がよく知られている。