農家もロゴが必要
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・系統出荷でも、最近は生産者の名前が記されている野菜が増えました。
・自己開拓の商品は、ブランドを作り、市場にアピールすることが必要です。
1/23の日経新聞より
農作物を農協にまとめて出荷するのとは違い、生産者が消費者に自分の名前で売ろうとすると、ある難問に直面する。作物の魅力をいかにアピールし、ブランド力を高めるのかという課題だ。パッケージやロゴのデザインはそのカギを握る要素の一つだろう。
「味は食べればわかってもらえるが、作物の価値の伝え方はそれだけではない。デザインで作り手の哲学やこだわり、作物の品質を伝えることができる」。農業関連のデザインを手がけるコトリコ(東京都瑞穂町)の代表、江藤梢さんはそう語る。
農家向けのデザインの仕事を始めたのは2008年。茶葉の生産から製茶、商品化までを手がけている「東京の茶工房 西村園」(同)のアルバイトに応募したことがきっかけだ。
もともと複数のデザイン事務所で働いていたが、農業をやってみたいという思いが募り、いったんデザインの仕事を離れることにした。西村園でアルバイトをしようと思ったのも、就農が頭の片隅にあったからだ。
ところが面接で江藤さんの経歴を知った西村園代表の西村一彦さんは「うちのデザインをやってみたら」と提案。西村園のロゴマークを作ったことを機に、江藤さんは本格的に農業関係のデザインに取り組むことになった。自分のスキルを生かすことで、農業や地域を応援できると気づいたからだ。
当初は個人で仕事を引き受けていたが、16年にはコトリコを設立。これまでに1000点以上のデザインを手がけてきた。
ここで江藤さんのデザインを具体的に見てみよう。まず西村園のロゴマーク。よく見ると、お茶の葉っぱが人の手のひらのようだ。いまは製茶に機械を使っているが、昔ながらの職人による手もみと同じように丁寧に作っていることを表現した。
東京都で新たに農業を始めた若者たちのグループ「東京NEO―FARMERS!(ネオファーマーズ)」のロゴのデザインも江藤さんが手がけた。太くてシンプルなオリジナルの文字に「(彼らの挑戦が)これからの農業の王道になってほしい」という思いを込め、縦の緑のストライプで新芽が伸びていく様子を表した。
東京ネオファーマーズはもともと懇親会的な緩やかな集まりだった。だが存在が注目を集めるのに伴い、共同でマルシェを開いたり、レストランに出荷したりすることが増えてきた。そこで使われるのが、江藤さんのデザインだ。
デザインの作成は、農家との共同作業でもある。東京都日の出町でパッションフルーツやトマトを作る野口農園の若手農家、野口雅範さんとの仕事がそうだった。目を引くのが、植物などをあしらった黒一色のデザイン。その細部まで野口さんと話し合って決めた。「高級感を出すとともに、これから様々なことを吸収し成長していくという思いを込めた」と江藤さん。
仕事はさらに海外へと広がりつつある。国際協力機構(JICA)の事業の一環で、国際農林業協働協会(東京・港)がモンゴルで実施しているプロジェクトに19年から参加した。
プロジェクトの目的は、ハチミツを生産する養蜂家の育成。20年9月にウランバートルで開かれたマルシェに現地の養蜂家が出品する際、ブースのテーブルクロスやのぼりのデザインを担当した。モンゴル政府はハチミツを輸出産業に育てる目標を掲げており、日本で培ったブランディングのノウハウを生かせる可能性は大きい。
では農業関連のデザインの仕事に10年以上たずさわってきた江藤さんは、いま生産者に対して何を感じているのだろう。そう聞くと「デザインは最後に作るべきものと考えるようになった」という答えが返ってきた。
農家がどんな客を想定し、自分の農産物のどの点をどうアピールしたいと思っているのか。まず農家が自分のプランを頭の中で整理整頓することで、デザインを通して何を表現すべきかが見えてくる。農家に伴走し、その作業を形に落とし込むのが江藤さんの仕事。戦略をクリアにするサポートをしているのだ。
日本の農業はいま高齢農家の大量引退による構造変革期にある。環境の劇的な変化はやる気のある農家にとって大きなチャンス。その際に重要なのは、生産者が事業の目標を明確にすることだ。デザインはそれを視覚化するための作業でもある。
私共が作成した農家のロゴ (一部、色合いを変えております)
①Aニラ農家さん(ブランドニラ) ②お茶農園さん(星がきれいな中山間地の無農薬の茶葉)
③お米農家(無農薬米栽培 近隣の川が蛍の里のイメージ)